「これであとは報告待ちね。掃除してから装備の用意でもしましょうか。」

「・・・・・・。」

「・・・なんて顔してるのよヨハネ。」

嵐の去った私塾の中でほうき片手に掃除を開始したセイクレッドをヨハネは( ̄ロ ̄|||という顔のまま立ち尽くしている。

「いや・・・なんていうか・・・・魔族さん脅迫するとか流石セイクレッドていうか・・・。」

見慣れたといわんばかりのハーディンは本を片付けながら苦笑を浮かべている。

「私もう一匹契約してる魔族いるから下手に他の魔族と契約なんてできないのよ。忘れてない?私の不老長寿は

魔族と契約して得たもんだって。」

左肩の契約印を軽く見せて笑う。

「ぁ・・・・・」

それが自分を待つ為の選択だった事を思い出してヨハネは顔色を変えた。

「・・・・別に責めてるつもりないんだからそんな顔すんなっつの。私は私で楽しんでるし。この生活。ほら、あんたもほうき。」

そう言って何事もないようにほうきを投げてくる。

「うん・・・・。」

受け取ったほうきで私塾の掃き掃除をしながらヨハネは考える。自分があの日の続きを生きる為に

セイクレッド・・・そしてオルが進んできた道を。

「・・・セイクレッド。」

「ぁ?」

しばらく黙ったままだったヨハネの声にこれ以上ネガティブ発言したら蹴り飛ばすわよという声で答える。

「オル、連れ戻すよ。」

「・・・当然。」

顔を見合わせて笑う。その様子を見ながら離れたところでハーディンが呟いた。

「・・・その全力とやらに私を巻き込んでないだろうな・・・?」










〜その頃のオル〜
「・・・・・」
膨れた顔でベッドに座り込んでいた。

あれから二日、何の動きもない。

暇で獄吏に話しかけてみるがたまに返答らしきため息が返ってくるだけでほぼ独り言。

日の当たらない牢獄では時間の感覚も曖昧になる。

(・・・・こーれは『8歳の子供なら発狂してこっちの思い通りに動かせるようになるだろー』な拷問の一種かにゃ?)

そんな事を考えながらため息をつく。

・・・と



「出ろ。」

外から獄吏に声をかけられた。顔を上げるとその手には手錠。

「大人しくしていろ。」

無表情の片羽の少女の顔を見上げる。ここで騒いでも何も変わらないと両手を差し出す。

その先の鎖を引き、どこかへと連れて行かれる。

そこでひとつオルは気づいた。

『このおねーちゃん・・・歩幅オルちゃんに気使ってる・・?獄吏さんなのに?』

繋がれた手は強引に引かれる事なく、ゆっくりとオルがついてくる程度に歩かれている。

「・・・おねーちゃん名前は?」

「・・・・・・・・・」

長い沈黙。そして。

「ない。」

「・・・・そっか。」

それ以上会話の続かないまま、少し開けた場所に出る。

いくつかの蝋燭の火で辛うじて暗闇を照らす程度の部屋。窓もないところを見ると恐らくは地下だろう。



「きたか・・・・。」

その薄暗い部屋の中で振り返る男が一人。その横にはオルを誘拐した男が無表情のまま立っている。

誘拐される時はフードを被っていたコトもあり分からなかったが思っていたより随分幼い顔をしている。

恐らくオルの「実年齢」より若いだろう。



「・・・おじちゃんだぁれ。」

色々な思考をめぐらせつつも表情はいつもの「8歳オルちゃん」の顔で首をかしげて見せる。

「ふむ・・・もう少し衰弱すると思っていたのだがね。流石は貴族の血筋という所か?」

貴族の血・・・オルフェウス一族の血の事だろう。もっともオルにとっては何代も前の先祖の話であって全く実感はないわけだが。

「オルちゃんに何の用?」

男の質問には答えずオルは真っ直ぐに男の顔を見る。自分の綱を握っている少女と誘拐実行犯の少年と比べると随分老けた印象の

嫌な目つきの男だ。

「・・・単刀直入に言おう。お前の力が必要だ。」

単刀直入といいながら探るような言い方をしてくる男にカチンと気ながらもオルは相変わらずの表情で応える。

「誘拐は人にお願いする態度じゃないにゃ。・・・おじちゃんは悪い人だにゃ。」

「・・・・全く面倒な。」

「それはこっちのセリフにゃ。とっととオルちゃんを帰らせてほしいにゃ。」

さぁどう出る?そう思いながらオルは軽く身構える。

「私の話が分からないわけではないだろう?オノエル・J・オルディウス・オルフェウス。大人しくその内に隠している力を渡さねば

こちらも安全の保障はしかねるんだが?」

「何の事かさっぱりにゃ。スポイルで野良PTならもっと高レベルのバウさんに頼むといいにゃ。」

古い見慣れない形の剣を出されてもオルはひるまずに表情を変えず。

オノエルの現「揺り篭」である自分を殺せる者なんて現状このエルモアデンに数名しかいない事を知っているから。

「・・・いい加減のその口調をやめたらどうだ?貴様の年齢など調査済みだ。『神の揺り篭』それについて話してもらおう。」

イライラした様子の男を見て、軽く火のついたオルはニヤっと笑う。

「何のことかにゃー?オルちゃんは8歳でーすよー?」

小馬鹿にした顔をしてみせる。それに面白いように男は表情を変えた。

「・・・・やはり身を解体してその力を見つけるのが一番早いようだな?」

剣を構えた男にオルは少し薄ら笑いを浮かべる。

「出来るものならやってみるといいにゃ。出 来 る も の な ら 。」

真っ直ぐに降ろされた剣をしっかり見据えてオルは心に呼びかける。

『制御者オノエル、さぁ、どうする?』



  キィンッ・・・・・・





わずかにオルの前髪を切ったのち刃は何か硬い鉱物にあったように刀身を分けた。

「・・・・く・・・。」

不愉快だと顔をゆがめた男にオルは続ける。

「忠告だけしておくにゃ。今ならオルちゃんも何もなかった事にしてあげるですよ?」

いらだった様子の男は堪える様にオルの縄を握る少女に怒鳴る。

「牢に戻しておけ!」

「・・・・」

無言で少女は来た道をオルを引き歩く。部屋を出る際にオルは振り返りベーっと思いっきり舌を出して見せた。